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RS-232Cケーブルの思い出
押入れをさがしてみたら、意外なことに RS-232C用のケーブルが何本か、出てきたのではあった。
見つかれば見つかったで、なんでこんなのがウチにあるんだ?という疑問が沸き上がる。
思い出した。
あれはまだ、windowsなんつーものがなかったころ、それどころかパソコンの存在自体がまだあやふやだったころのことである。
ワシはワープロをかついで仕事をする、24時間はたらきますバリバリの仕事人であった。高あいワープロを買って、毎日毎日それをあちゃこちゃへ持って歩いたりしていた。なにしろCRTつきのワープロであった。
ある日モノの本で、ワープロ通信がどうたらという記事を見た。なにしろ「通信」とあればDNAが反応する体質のオレだもんだから、んじゃそれをやってみようと思いついて、職場で同僚のパソコンとこのRS-232Cで結んでみたのである。LANのようなものが組めたらデータ共有もラクだわなぁ、いちいちフロッピをやりとりせんでも済むし。てな思惑もあるにはあった。
成功するまでに、小一時間はかかったと思う。すったもんだの挙句、画面に文字が現れたときの感激よw。
でしんばらくの間は
「成功、こちらホワイトロック」
「サンダース、よくやった。こちらはチェック・メイト・キング・ツー」
などとやってはいたが、しょせん同一室内のことである。声を出したほうが当然、速いわけではある。
で、重ねた努力もどこへやら、スグに飽きて
「ばーか」
「あほー」
などと、それはコドモでもやらんであろう会話の応酬を、お茶飲みながらホントウに飽きるまで続けたのであった。その日はヒマすぎた。
で、ホントウに飽きて、ちと仕事でもするかということになりw、この通信のことは念頭から消え去ったちょうどそのとき、女の子がわしらの部屋に入ってきたのだった。
「わぁ。なぁに、このケーブルは。」
「あ、それワープロ通信。」
「すっごーい、なになに、どんなこと通信してるの。」
女の子が覗き込んだおれのワープロには、「き●●ま」「ち○ち○」などの文字がそれこそ画面いっぱいに踊っていたのである。通信成功の快挙に酔いしれ、その後やらかした乱痴気コミュニケーションのことはすっかり忘れていたおれであった。
その瞬間からおれの人格的評価は地に落ち、しばらくはこの子の顔を見るたび針のムシロの心境であった。各人のデスクをLANで結んで仕事の効率を上げるという高邁な思念はどこへやら。通信は直接、面と向かって行うのが正しく、今後データのやりとりは面倒がらずにフロッピを使って手渡しをするべきだとおれは固く決心した。
が、いま一言だけ言わせて欲しい。
その文字列を打ち込んだのはおれではない。机向かいのアイツである。おれではない。
もっとも同じような言葉で応酬していたことは認める。
- Date : 2008-06-30 (Mon)
- Category : Digital