テレビを見聞きする限りでは、満足できるレベルの試合批評が全くない。もうしょうがないので自分で書くことにしたw。
=June 24 2010 南ア・ロイヤル バフォケン スタジアム発 電離層代理=
デンマーク戦は、日本代表が初めて日本らしさを存分に発揮した、目覚しい内容の試合だった。日本チームの動きについてこれるデンマーク選手は、試合全般を通じてひとりもいなかった。
試合前半戦で早々と負け犬集団と化したデンマークは一向に立ち直りの兆しを見せず、苛立ったポセイドンの神が自ら試合終盤でデンマークにPKが与えたが、それさえも日本チームの士気を鼓舞する役割を果たしただけだった。試合は日本チームが完全に支配していた。
この試合を決定づけた最大のシーンとして、最初の得点となった前半17分、本田のフリーキックを上げる評論家は多いが、それはちがう。前半30分、二点目を獲得した遠藤のフリーキックをもって嚆矢とする。この場面を、辛口でなるヨーロッパ各紙も『創造的』と評価した。
この、遠藤のフリーキックにより放たれたボールは、美しく鋭い軌跡を描いて敵陣ゴール右隅に突き刺さることでこの試合の流れを決定づけただけでなく、同時に、日本のサッカーの未来をも創造することになった。
前半開始29分。デンマーク・クロルルップにイエローカード。ゴール正面27メートルの位置で日本は再びフリーキックを得た。ボールを前にして、本田は完全に集中していた。
直前の前半17分に、35メートルのフリーキックを無回転ボールで制した本田が今度はどんな技でデンマークにとどめを刺すかと、世界中が固唾を飲んで見守っていた。
テレビカメラは本田の表情を大写しにしていた。本田の額に汗が浮かぶ。眼に鋭い光が増す。キーパーを睨めつける。呼吸を整える。世界じゅうの目が本田に注がれていたその時、ボール横に控えていた遠藤がふらふらとボールに近づいているのを、いったい何人が気づいたか。
遠藤だ!
アナウンサーがそう叫んだのは、すでに遠藤の三歩目は鋭く振り抜かれた後で、世界が気づいたときにはすでにボールは最短距離でゴール右下に突き刺さっていた。
遠藤はもともと、「気配」を読むことに超人的能力を発揮する選手である。ただ気配を読むだけならその能力を持った人は多いが、遠藤の場合は、時々刻々と変化する「気配」を先読みし、瞬間ごとに対応して行ける点で「超人的」だ。
だから遠藤が敵ゴールキーパのトーマス セーレンセンの動きを完全に掌握し、セーレンセンが自分に対して無警戒であると読んだことまでは、理解できる。私にとって不思議なのは、遠藤がキックするべきだというアイデアを本田とどの時点で共有したか、である。テレビカメラは終始、本田の表情を大写しにしていたが、途中で遠藤となんらかの連絡をしあっているような雰囲気は微塵も感じられない。セーレンセンの構えるゴールに完全集中しているように見える。
試合後のインタビュで本田は、「ヤットさん(遠藤)が蹴ると合図してきたので、敵に悟られない程度にうなずいた」と、また遠藤は「(本田が)素直に譲ってくれた」と言っているが、テレビの大写しでも本田にそれらしい表情の動きは感じられない。攻撃心にみちみちた表情をしていて、それで世界じゅうが本田が蹴り込むと信じこまされた。
遠藤のほうは先にも触れたとおり、気配を支配することでは天才的なので、最後の最後まで、全く殺気を漂わせていない。遠藤が打つと気づくのは右足からの強烈なシュートが放たれたあとだ。
インタビュでの本田の説明は、インタビュであるからなんらかの返答をしなければならないという義務感から生まれた、創作だろうと思う。あのとき、世界は本田に注目していた。キーパー・セレンセンも勿論そうだった。ならば本田と同等以上の成功率を誇る遠藤が蹴りこめば確実性は飛躍的に高まる。二人はほとんど同時にそう判断したのだと思う。
あの二点目は、勝利を目指して一致した二人の、心の協働・共鳴から自然に生まれた創造物だ。素晴らしかった。
もちろん、あのまま本田が蹴っても、おそらくは決まったであろう。また遠藤が本田の位置に立って蹴っても、おそらくは決まったであろう。しかし実際は、遠藤と本田が協働することで、「おそらく」のレベルを凌駕した「確実な決定力」を生み出した。1+1が2以上のものになった瞬間が、そこにはあった。これこそが、日本が伝統的に追い求めてきたものだ。それがいま、南アで結実した。ポセイドンの神は、今度は後半戦で、さらに本田のアシストによる岡崎のゴールを生み出し、祝福した。日本チームは世界中から祝福される試合展開をした。
次の課題は、この祝福を永遠のものにできるかどうかだろう。このデンマーク戦での二点目が、日本チームが営々と取り組んだ努力の産物であるなら、今回の結果が日本の実力であり、神の祝福は今後も続く。
けk
そうではなくて、たまたまの、なんらかの偶然の産物、つまりマグレであるなら、今後も日本チームは世界30位~40位をさまよい続けることになるだろう。
結果というものは、努力に応じて跡からついてくるというようなものでは決してなく、結果が出なくて出なくて出なくて、もう努力をするのはやめようとあきらめかけたときに、ゴム糸でもついていたかのように、後になって びゅん と突然追いついてくるものなのだと思う。
パラグアイ戦は、日本の将来を占う重要な一戦となる。健闘を祈る。
なんちゃってw。