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『安原製作所回顧録』安原伸著
出だしが実につまらんかったが、途中からあまりに面白く、ほとんど夜を徹して読みきってしもた。
安原製作所。よほどのカメラ好きでないと知らんと思う。前世紀と今世紀との間に挟まるようにして登場し、あっというまに消えたベンチャー企業。その表紙にあるとおり、安原一式という名の、昔の戦闘機のようなネーミングのカメラを世に出し、カメラ界に旋風を巻き起こした。その風は、「小型だが勢力の強い台風」なみであり、この安原製作所はカメラ史に燦然と輝く軌跡を残したと言える。
登場も華々しかったが、退場もまた派手だった。サービスの打ち切り宣告は市場にとっては「裏切り」であり、ネット上では罵声も飛び交ったことを覚えている。本書はそのベンチャーを主宰した安原氏の回顧録である。
ここまで書いて、もう眠いので寝る
起きたので続きを書く。
読みどころは多岐に渡る。カメラ発展史、業界史。ベンチャ興亡史。生産拠点とした中国に対する文化批評。消費者性向の分析。などなどなど。
ワシとしては、このベンチャ企業がそれなりには成功した経緯を追えたところがとてもとてーも有益だった。そしてさらに有益だったのは、安原氏がこのせっかくの成功物語を途中で打ち切る決断をしていくその心理を、一応つぶさに読めたところだ。
昨日も書いたとおり、安原製作所はベンチャとしては成功した部類と言える。儲かったかどうかは分からんが、少なくとも損はしていないと思われ、大企業化していくその一歩手前までは行っていた気がする。
いま、ワシらの国は大不況の真っ只中にあるけれども、それでも起業の波は続いており、投資規模は小さいが、それなりにぐぁんばろうとしている人はぐぁんばろうとしている。このうち、この安原製作所なみの成功を手にするのは、ワシが見たところおよそ3%。3%というと少ないように思われるかも知れんが、崩壊する97%の大半はいかにもそれは無理無謀だろうという起業なのであって、3%の成功ってのは、まぁなかなか確率として悪くはない。
問題はここからなのだ。かつては存在しなかった企業がそこに生まれると、市場と市場を取り巻く環境に変化が生まれる。起業前の市場と起業後の市場は別物で、まぁなんと申しましょうか、産むと育てるは全く別物と申しましょうかなんと申しましょうか、そのことを改めて再認識するのにとてもとてーも有益な一冊でございました。